遺産相続が争いになる原因、予防方法、解決方法

① 遺産相続が争いになる原因(総論)

遺産相続は家族間の問題ですので、基本的には争いになることなく解決することがほとんどだと思います。しかし、中には争いになることもあり、そういった案件につき私たち弁護士に相談が来ることになります。
争いになる相続のケースとしては本当に様々ですが、家族間の仲が悪い場合、家族間の関係性が薄い場合(例えば、前妻の子と後妻の子が相続人になる場合)、遺言書の内容に偏りがある場合(例えば、相続人複数にもかかわらず1人に全てを相続させる遺言書がある場合)、相続人の1人に取得財産の種類、金額等にこだわりがある場合に、争いになることが多いかと思われます。他にも、下記に記載したようなケースについても争いになることがあります。

② 争いを回避する方法はあるの?

相続において争いにならない方法として、簡便で有用な方法として、「遺言書の作成」が挙げられます。遺言書がない場合には、民法の適用により、法定相続人が法定相続分に応じた金額を受け取ることになり、その分割方法は協議する必要があります。他方で、遺言書がある場合には、誰がいくら受け取るかなど、詳細に決めることができます。そのため、遺言書がある場合には、協議の余地をなくし、争う余地が極力なくなるようにすることも可能です。そのため、遺言書を作成しておくことは争いを予防するために非常に有用であるといえます。
もっとも、遺言書の内容に偏りがあったりすると、遺留分の問題が発生し、遺留分の争いになっていく可能性がありますので、注意が必要です。争いにならない遺言書の作成については、弁護士などの専門家のアドバイスも受けた方がよいです。なお、遺言書のほか、家族信託(民事信託)を活用することも、争いを予防する手段として使われています。
遺言書の作成方法については民法で複数規定されています。もちろん自筆で作成する遺言も可能ですが、民法で形式的要件が規定されており、要件が欠けると無効になってしまうリスクがあるので、あまりオススメはしません。緊急時などにとりあえず作っておく、ということは有用である場合があるとは思います。
私としては、公正証書遺言(公証役場において、公正証書で作成する遺言)を推奨します。公証人の確認、作成により遺言書が作成されるため、無効となるケースが少ないからです。遺言作成の際に認知症になっている場合には、遺言無効の訴訟が起こされることもあります。そのような場合、公正証書遺言で作成していれば、公証人が遺言能力などについての証明に関する協力をしてくれることも多いと思われます(認知症がひどくて意思が確認できない場合にはそもそも公正証書遺言を作ってもらえません、)ので、自筆証書遺言に比べると遺言が無効と判断されることは少なくなるということはいえると思います。
近年行われた相続法改正により、自筆証書遺言の方式が緩和され、法務局による保管の制度も創設されましたが、公証人が文案を作成し、公証人が遺言能力の証明に協力してくれる公正証書遺言の方が、無効になる可能性が減少するという観点から有用であると考えています。

③ 不動産が原因となる争い

遺産が不動産のみの場合や、遺産のほとんどを不動産が占める場合には、1人の相続人にその不動産を相続させると、他の相続人は法定相続分を受けられなくなることがあります。このような場合に争いになることも比較的多くあります。特に都市圏内の不動産は価格が高いことも多いので、この傾向が顕著になります。
このような場合の解決方法としては、不動産を売却して金銭に換えて分配する、共有で相続する、などといった方法がありますが、いずれの方法も1人の相続人が現に居住している不動産の場合には問題が深刻化し、争いになる可能性が高くなります。このようなケースの解決は簡単ではないですが、各相続人の意見を踏まえ、進めていかざるをえず、調停や審判といった手続まで行わないと解決しないケースもあります。
こういったケースについては争いになった後の解決のハードルが高くなるので、特に予防が重要になります。あらかじめ金銭を多く残しておくというのがいいのでしょうが、それは理想論であり現実問題うまくいかないこともあります。生命保険を使うことによって金銭を捻出できるようにするという方法もあります。

④ 認知症が原因となる争い

遺言書作成によって相続分に偏りがあり、遺言書作成時に認知症であった場合には、遺言の無効を主張され、訴訟となることがあります。この対策として思いつくのは、まずは公正証書遺言において遺言を作成することです。なお、成年後見制度を使って成年後見人がついている場合には、民法上、遺言書作成には医師2名の立ち会いが必要となります。

⑤ 子どもがいない場合の争い

亡くなった人に子供がおらず、親が既に亡くなっている場合、配偶者と兄弟姉妹のみが相続人になることがあります。このような場合に遺言書がないと、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続することになります。
もっとも、配偶者と兄弟姉妹の関係性が薄いことも多いですし、遺産の大部分が不動産の場合には、争いになりやすいといえます。
この場合の予防方法としては、遺言書を作成することが考えられます。兄弟姉妹には遺留分はありませんので、配偶者に全てを相続させるという遺言を作っても遺留分の争いは発生しません。

⑥ 相続人が多数の場合の争い

遺産分割協議には全員の同意が必要です。遺産分割調停を成立させる場合も同様です。そうすると、相続人のうちの1人が同意しないと、遺産分割することができず、遺産分割の審判といった手続まで行わざるをえず、問題が長期化します。相続人が多数のケースでは、相続人が増える分、その確率は上がってしまいます。また、相続人の人数が多いと、相続人間の意見のすり合わせも困難です。
相続人の人数が多い、協議が難しいと考えた場合には、早々に調停を申し立てた方が早く解決すると考えられます。
なお、上記のケースは一般的な遺産分割のケースを想定していますが、少し特殊な事例として、ある不動産があり、登記簿上所有者となっている人がかなり前に亡くなっているが、不動産登記の名義人を昔から全く変えていないため、その不動産を処分することができない、ということがあります。このような相談は意外と多いです。このようなケースでは相続が何度も発生することにより、相続人が数十人に上るケースもあります。私の経験でも、相続人が40人くらいになったケースもあります。
このようなケースでは、素直に解決しようとするならば遺産分割協議、調停、審判といった手続になりますが、人数が多いため長期化することもありますし、自分の単独名義とするには全員の同意が得る必要があるのが原則です。そうなると処分までにかなり時間がかかってしまいます(共有物分割訴訟などの別手続を踏まないといけない可能性もあります)。
もっとも、不動産の占有が長期にわたって認められる場合には、時効によって単独で所有権を取得することが可能になる場合もあります。その場合には、交渉を経ることなく、時効による取得を理由に訴訟提起をして自分の単独名義にし、早期に一挙解決できる場合もあります。こういったケースではそもそも争いにならないこともあり、他の相続人が出廷しなければ欠席判決になり、勝訴判決を得られ、すぐに登記名義を変更することも可能となるケースもあります。こういった複雑なケースでもこのような手法により早期に一挙解決できたことも何回かあります。

⑦ まとめ

本コラムでは、遺産相続が争いになる原因、予防方法、解決方法を記載しましたが、いかがでしたでしょうか。相続でお悩みの方は、弁護士法人北澤総合法律事務所(愛知県弁護士会所属)までお問い合わせください。