遺産相続の基礎知識

遺産相続とは

民法第896条において、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と書かれていますが、相続の定義をもう少し分かりやすくいうと、人が亡くなった場合、亡くなった人の資産(プラスの財産)も負債(マイナスの財産)も全て相続人が引き継ぐ、ということになります。
なお、相続人とは引き継ぐ人、被相続人とは亡くなった人を指します。

相続人の範囲

現行民法において、遺言がない場合の相続人は、配偶者、子、親、兄弟姉妹などになります。遺言がない場合は、相続人については法律が決めてくれており、法律が決めた相続人のことを「法定相続人」といいます。法定相続人は、配偶者、子、親、兄弟姉妹などであり、子供が亡くなっている場合にはその子供(亡くなった人の孫)などが法定相続人となることもあります(「代襲相続」といいます。)。なお、法定相続人については順位が決まっていますので、上記の者が全員相続人となるというわけではありません。
遺言がある場合には、遺言に相続させる人が記載されていれば、法定相続人が誰であるかにかかわらず、それに従います。

法定相続人の順位

法定相続人となる順位は次のように法律で決まっています。

  • 亡くなった人の配偶者は常に相続人となります。
  • 亡くなった人の子は第一順位の相続人となります。子がいる場合には、親や兄弟姉妹が相続人になるということはありません(子が相続放棄をした場合を除く)。子が亡くなっている場合には、その孫がいれば、孫が第一順位の相続人となります(代襲相続)。
  • 亡くなった人の子がいない場合で、親がいる場合には、親が第二順位の相続人となります。親がおらず、祖父母がいる場合には、祖父母が第二順位の相続人となります。
  • 亡くなった人の子がおらず、親もいない場合(第一順位の相続人と第二順位の相続人がいない場合)には、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。また、兄弟姉妹が既に亡くなっていて子供がいる場合には、その子供も相続人となります(代襲相続)。

法定相続分の割合

・第一順位の場合

第一順位の相続人(子や孫)がいて、配偶者もいる場合には、配偶者が2分の1、子が2分の1を相続します。この場合、子が複数いるときには、2分の1をその子の数で割って均等に相続します。
第一順位の相続人(子や孫)がいて、配偶者がいない場合には、遺産全体を子の数で割って均等に相続します。

・第二順位の場合

第一順位の相続人がいない場合についてです。
第二順位の相続人(親、祖父母など)がいて、配偶者もいる場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1を相続します。父も母もいれば、3分の1を父と母で半分ずつ相続することになります。
第二順位の相続人(親、祖父母など)がいて、配偶者がいない場合には、親が遺産の全てを相続します。この場合、父も母もどちらもいれば、父と母で半分ずつ相続することになります。

・第三順位の場合

第二順位の相続人がいない場合についてです。
第三順位の相続人(兄弟姉妹やその子)がいて、配偶者もいる場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を相続します。この場合、兄弟姉妹が複数いるときは、4分の1をその兄弟姉妹の数で割って均等に相続します。
第三順位の相続人(兄弟姉妹やその子)がいて、配偶者がいない場合には、兄弟姉妹が遺産の全てを相続します。この場合、遺産全体を兄弟姉妹の数で割って均等に相続します。

・その他の場合

第三順位の相続人がいなくて、配偶者がいる場合には、配偶者が遺産の全てを1人で相続します。
第一順位、第二順位、第三順位の相続人がおらず、配偶者もいない場合には、相続人はいないことになり、誰も相続しないことになりますが、特別縁故者という制度などがあり、法定相続人以外が遺産を取得することもあります。

遺留分とは

遺留分制度とは、亡くなった人の遺産について、その一定割合の承継を一定の法定相続人に保障する制度です。簡単にいうと、遺言で偏った相続をさせた場合など、遺言によって相続分が少なく・もしくは相続分がなくなった法定相続人(兄弟姉妹は除く)が、一定の金銭を請求できる、という制度です。
民法では遺言の制度があり、基本的に亡くなった人の自由に財産を相続させることができるのですが、完全に自由にできるわけではなく、遺留分というものを侵害することはできない、ということです。
このことから、例えば、配偶者と子がいる事案で、亡くなった人が生前に遺言で全て配偶者に相続させるとした場合には、子の遺留分を侵害しているかが問題になってきます。遺留分を請求しうるのは、配偶者、子(孫なども含む)、親(祖父母なども含む)であり、兄弟姉妹には遺留分を請求する権利はありません。

特別受益

特別受益とは、亡くなった人から生前に贈与を受けたり、遺言で遺産をもらったりしている場合に、そういった特別な受益を相続分の前渡しとみて、遺産に持ち戻して相続分を算定するという制度です。もっと分かりやすく言えば、得した分(生前贈与をイメージすると分かりやすいです。)について亡くなった人の遺産としてしまって相続分を決める、というものであり、特別受益がある人は、特別受益以外の遺産の配分は少なくなるというものです。実務上よく問題となるのは、相続人の一部にしか生前贈与をしていないケースだと思われます。
なお、持戻し免除の意思表示という制度があり、亡くなった方が生前に特別受益については持ち戻さなくていいと言っていた場合には、特別受益はないことになります。

寄与分

寄与分とは、相続人の中に、亡くなった人の財産の維持または増加に特別の寄与をした人がいるときは、その寄与の分だけ特別の寄与をした人の相続分を増やす、という制度です。遺言がない場合には法定相続分は上記のように決まっていますが、寄与分がある場合には法定相続人でも取得できる金額が変わってくる、ということです。
例えば、相続人が生前に亡くなった人に財産を渡したり、一生懸命介護した場合などに認められるものですが、寄与分はそんなに簡単に認められるものではありません。お小遣いを渡したり介護していたりしても、扶養義務の範囲内だと言われて寄与分が認められないということもよくあります。

相続の対象となる財産

基本的に、財産や負債は全て相続することになります。
財産としては、典型的には不動産、車、預貯金、株などがありますが、財産的価値のないようなもの(例えば古い電子レンジなど)でも相続の対象となります。死亡した場合に相続人の一人が保険金を受け取る場合には、原則としてそれは相続の対象となりませんが、その金額が大きすぎる場合には相続の対象となることもあります。
他方で、負債も全て相続の対象となりますので、借金、税金未納分、賃料未納分、電気ガス水道代未納分なども相続の対象となります。なお、住宅ローンも負債ですので相続の対象となりますが、住宅ローンを組むときによく付けている団体信用生命保険という保険に入っていれば住宅ローンが消えるということもあります。

相続について弁護士に依頼するメリット

相続について弁護士に依頼する一番のメリットは、適切な相続分の取得を向けて適切に進めていくことができることだと考えてます。
相続についてインターネットで調べると、このコラムに書いてあることなどはたくさん書かれています。そのため、法律知識がない方でも、遺留分、特別受益などの言葉を知ることは容易です。
しかしながら、インターネットで取得できる情報だけで適切な相続分を理解・把握するというのは容易ではありません。遺留分、特別受益、寄与分などの制度は難しい問題もありますし、相続法については法改正もありました。弁護士が聞き取りをして、「これもいけますね」ということもあります。ご自身で対応すると、インターネットで得た情報のみからご自身で判断して無駄に争いになり、紛争が激化したり長期化するということもあります。弁護士は、知識と経験をもって事案ごとに判断をし、適切に進めていきますので、それが一番のメリットだと考えられます。
また、相続についての争いは親族間の争いであることもあり、直接話したくない、会いたくない、という気持ちになることも多いです。弁護士に依頼すれば弁護士が代理人として全て代わりに対応することが可能ですので、そういった精神的ストレスから解放されることも弁護士に依頼するメリットです。
さらに、親族間の争いは感情的な対立も大きい事案も多いですが、直接話すのではなく、弁護士という第三者を間に入れることによって、交渉時に相手の方の感情が抑えられ、スムーズにいくこともあります。

まとめ

本コラムでは、相続の概要を記載しましたが、いかがでしたでしょうか。相続でお悩みの方は、弁護士法人北澤総合法律事務所(愛知県弁護士会所属)までお問い合わせください。

※本コラムはわかりやすさを重視しております。網羅性や定義の正確性などを重視すると複雑でわかりにくくなってしまいますので、できるだけ分かりやすい言葉を使って、なるべく単純明快に説明しています。この点については予めご了承ください。