「事業再構築補助金が話題になっているけれど、何がそんなにすごいの?」
「これまでもコロナ関係の助成金や協力金があったけれど、事業再構築補助金は何が違うの?」そのような方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
事業再構築補助金もまた、これまでの給付金等のように新型コロナウイルスの影響で売上げが減少した事業者を対象とする補助金です。
しかし、これまでの給付金等とはまったく異なるタイプの補助金となります。
目次
事業再構築補助金の4つの特長
特長1:企業を成長させるための支援であること
これまでの政府や自治体の支援では、持続化給付金や感染拡大防止協力金のように、新型コロナによる損失をカバーするタイプ、言ってみれば「守り」を強化するために行われるものが大部分でした。
これに対し、事業再構築補助金は、目下の損失をカバーするものではなく、企業の将来に目を向けた「攻め」を強化するもので、企業の新しいチャレンジに伴う設備投資や経費の一部を補てんするものとなります。
こうした目的の補助金ですので、企業にとって「初めて」(「新規性」といいます)の取り組みであることが必要になったり、3年~5年の間で一定の水準以上の利益や事業拡大のための投資を実施する計画が求められたりするという特長があります。詳しい要件は、こちらの記事でまとめています。
特長2:さまざまな挑戦が対象になる
補助金を受けるには、事業再構築(新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・事業再編のいずれか一つ)を行う必要があります。
これまでの事業を180度変える取り組みでも良いですし、商品やサービスの提供方法を変更するというような取り組みでも対象になり得ます。
より挑戦的なアイデアのほうが評価は高くなりますが、挑戦の度合いは、企業で選択できるということです。新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換の解説はこちら、事業再編の解説はこちらです。
特長3:予算は1兆円超え
事業再構築補助金の予算は1兆円超えです。なかなかピンと来ない数字ではありますが、これは補助金としては異例の金額になります。
事業再構築補助金事務局のホームページによれば、令和3年度内に4回程度の公募を予定しているとのことですので、しっかり準備をしてから申請しましょう。
特長4:対象は個人事業主から資本金10億円未満の企業まで
事業再構築補助金の対象者は、「中小企業者等」か「中堅企業等」とされています。
それぞれの詳しい範囲は公募要領に記載されているため省略しますが、個人事業主から資本金10億円未満の法人まで、幅広い企業が対象になります。
ただし注意点としては、
- 中小企業者等でも親会社の状況によって対象外になる場合があること
- 中小企業者等でも所得の金額で「中堅企業等」になる場合があること
です。
後者は問題がないように見えますが、中小企業と中堅企業とでは補助率に違いがあり、この判定を誤ると、最悪の場合、審査をしてもらえない可能性があります。
公募要領にも、中堅企業であるにも関わらず、中小企業の補助率で事業計画を提出する等の不備は審査できないことがあるという内容がわざわざ書かれていますので、補助率にかかわる判定ミスは絶対に避けなければなりません。
事業再構築補助金の4つの申請枠
事業再構築補助金は、4つの申請枠に分かれています。
申請する際は、どれか1つを選んで応募します。
- 通常枠
- 卒業枠
- グローバルV字回復枠
- 緊急事態宣言特別枠
もっとも標準的な枠は、1の通常枠です。2と3は、1の上乗せ枠で、2が中小企業向け、3が中堅企業向けとなっています。4も1の通常枠をベースにしていますが、令和3年の緊急事態宣言によってより大きな被害を受けている方が対象です。
そのため、4つのうちもっとも補助率の高い枠(=企業の負担額が少ない枠)となっています。
なお、2~4の枠で審査に落ちてしまった場合(=不採択となった場合)、自動的に1の通常枠で再審査が行われます。そうすると2~4の枠で最初から申請したほうがお得のように思えますが、2と3には返還リスクがあり、4は補助金の上限が少ないため大きな投資には向かないというデメリットがあります。
2と3の返還リスクについてはこちらをご覧ください。以下、それぞれの申請枠の「補助金額・補助率等」と「申請要件」を解説します
通常枠
【補助金額・補助率等】
補助金額 | ・中小企業者等 100万円 ~ 6,000万円 ・中堅企業等 100万円 ~ 8,000万円 |
補助率 | ・中小企業者等 3分の2 ・中堅企業等 2分の1 (4,000 万円超は3分の1) |
補助対象経費 | 建物費、機械装置・システム構築費(リース料を含む)、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費、研修費 |
【通常枠の申請要件】
通常枠では、以下の要件をすべて満たすことが求められます。
他の枠も、この要件がベースとなっています。
① 事業再構築要件 | 新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換・事業再編のいずれか1つを行うこと |
② 売上減少要件 | 直近6か月間のうち、「任意の3か月」(連続していなくてOK)の売上高の合計額が、コロナ以前(2019年又は2020年の、「1月~3月」)の売上高と比較して10%以上減少している |
③ 認定支援機関要件 | 事業計画を認定経営革新等支援機関と策定すること。詳しくはこちら。 |
④ 付加価値額要件 | 3~5 年で下記のいずれかを達成する見込みの事業計画を策定すること ・付加価値額の年平均3.0%以上増加 ・従業員一人当たり付加価値額の年率平均 3.0%以上増加 付加価値学についてはこちら |
卒業枠(400社限定)
中小企業向けの、通常枠の上乗せです。
事業再構築に加えて「事業再編等」のプラスアルファの取り組みを行うことで、中小企業等から中堅・大企業等への成長を目指す場合が対象になります。
要件は通常枠がベースとなりますので、通常枠と異なる部分を青字にしています。
【補助金額・補助率等】
補助金額 | 6,000万円超 ~ 1億円 |
補助率 | 一律3分の2 |
補助対象経費 | 通常枠の経費+海外旅費 |
【卒業枠の申請要件】
①事業再構築要件 | 通常枠に同じ |
②売上減少要件 | 通常枠に同じ |
③認定支援機関要件 | 通常枠に同じ |
④付加価値額要件 | 通常枠に同じ |
⑤事業再編等要件 | 事業再編、新規設備投資、グローバル展開のいずれかの取り組みによって、資本金又は従業員を増やし、中堅・大企業等に成長すること |
事業再編については、こちらをご覧ください。
新規設備投資要件とは、卒業枠による補助金額の上乗せ分の3分の2以上の設備投資を行うものです。
グローバル展開要件とは、 海外直接投資・海外市場開拓・インバウンド市場開拓・海外事業者との共同事業のいずれかの要件を満たすことが必要となります。
新規設備投資要件とグローバル展開要件は、経済産業省の「事業再構築指針の手引き」の「8-1」と「8-2」をご覧ください。
経済産業省HP:事業再構築補助金
グローバルV字回復枠(100社限定)
こちらは中堅企業向けの、通常枠の上乗せです。
コロナの影響で大きく減少した売上げを V 字回復させる中堅企業等の取り組みを支援するものになります。
【補助金額・補助率等】
補助金額 | 8,000 万円超 ~ 1億円 |
補助率 | 一律2分の1 |
補助対象経費 | 通常枠の経費+海外旅費 |
【グローバルV字回復枠の申請要件】
①事業再構築要件 | 通常枠に同じ |
②売上減少要件 | 直近6か月間のうち、「任意の3か月」(連続していなくてOK)の売上高の合計額が、コロナ以前(2019年又は2020年の、「1月~3月」)の売上高と比較して15%以上減少している |
③認定支援機関要件 | 通常枠に同じ |
④付加価値額要件 | 3~5 年で下記のいずれかを達成する見込みの事業計画を策定すること ・付加価値額の年平均5.0%以上増加 ・従業員一人当たり付加価値額の年率平均5.0%以上増加 |
⑤ グローバル展開要件 | グローバル展開を果たす事業であること。グローバル展開については卒業枠を参照。 |
緊急事態宣言特別枠
令和3年の緊急事態宣言によって、売上げが特に減少した事業者を対象とする枠です。
緊急事態宣言が発令されていない地域の企業でも、要件にあてはまれば対象になります。
【補助金額・補助率等】
補助金額 | 【従業員数 5 人以下】 100万円 ~ 500万円 【従業員数6~20 人】 100万円 ~ 1,000万円 【従業員数 21 人以上】 100万円 ~ 1,500万円 |
補助率 | 中小企業者等 4分の3 中堅企業等 3分の2 |
補助対象経費 | 通常枠と同じ |
通常枠より補助率が高いメリットがありますが、補助金額は大きくありません。
【緊急事態宣言特別枠の申請要件】
①事業再構築要件 | 通常枠に同じ |
②売上減少要件 | 通常枠に同じ |
③認定支援機関要件 | 通常枠に同じ |
④付加価値額要件 | 通常枠に同じ |
⑤ 売上高減少要件 | 令和3年の緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業や不要不急の外出・移動の自粛等による影響を受けたことにより、令和3年1月~3月のいずれかの月の売上高が前年又は前々年の同月比で 30%以上減少している |
通常枠の売上減少要件(②)と緊急事態宣言特別枠の売上高減少要件(⑤)の両方を満たさなければならない点に注意してください。②と⑤では、判定対象月と減少率が異なります。
おわりに
新しいチャレンジはリスクも伴います。
金銭的なリスクは事業再構築補助金である程度コントロールできたとしても、法務リスクはそうはいきません。
たとえば、新しい取引先の選定、新しい契約の締結、新しい製品の開発、新しい人材の雇用など、事業再構築に伴って、これまでになかった法務リスクにさらされる可能性もあります。
企業の命運をかけてこれから新しい挑戦をされる企業は、ぜひ、こうしたサポートを弁護士にお任せください。
事業再構築補助金の内容は、執筆時点のものを元に解説しています。
申請される際は、必ず最新の公募要領等をご確認ください。