事業再構築補助金には4つの申請枠(通常枠・卒業枠・グローバルV字回復枠・緊急事態宣言特別枠)がありますが、いずれの枠にも通じる申請要件に「事業再構築要件」があります。
「事業再構築要件」を満たすには、
- 新分野展開
- 事業転換
- 業種転換
- 業態転換
- 事業再編
の5つのうち、いずれか1つにあてはまる事業再構築を行わなければなりません。
この5つは、それぞれ要件が異なるのですが、予備知識がないまま公募要領を読んでも違いが読み取りづらく、一体どれを目指して補助金を申請すればよいのかわかりづらいと思います。
ちなみに一番下の「事業再編」は、上記の4つのいずれか1つに、会社法上の「組織再編」の要件を加えたものです。
したがって、まずは新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の4つの選び方を知る必要があります。
※事業再編は、別記事で解説します。
目次
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の要件とは
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の要件一覧
まず、新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の要件をまとめた下記の一覧表をご覧ください。
事業再構築の類型 | 新規性要件 | 売上高要件 | 備考 | |
① | 新分野展開 | 製品等・市場 | 10%要件 | ‐ |
② | 事業転換 | 製品等・市場 | 構成比 | ‐ |
③ | 業種転換 | 製品等・市場 | 構成比 | ‐ |
④-1 | 業態転換(製品の製造方法の変更) | 製品・製造方法 | 10%要件 | 製品と製造方法の両方に新規性が必要 |
④-2 | 業態転換(商品等の提供方法の変更 | 商品やサービス・提供方法 | 10%要件 | 商品やサービスの新規性の代わりに「設備撤去等要件」でもよい |
どの類型にも共通する要件は、「新規性要件」と「売上高要件」です。
まずはこの2つの要件を確認しましょう。
新規性要件とは
「新規性」とは、企業にとっての初めての取り組みであることをいいます。世界初とか日本初とか、そういった革新的なものを求めているわけではありません。
新分野展開・事業転換・業種転換(上記①~③)を申請する場合、「製品等」と「市場」の両方の新規性がある事業計画を提出しなければなりません。
「製品等」とは、製品、商品・サービスの総称です。業態転換(上記④)の新規性は少し特殊ですので、後半で解説します。
製品等の新規性要件
製品等の新規性 | ・過去に製造等(=製品の製造、商品やサービスの提供)をした実績がないこと ・製造等に用いる主要な設備を変更すること ・定量的に性能又は効能が異なること(製品等の性能や効能が定量的に計測できる場合に限る) |
製品等の新規性要件とは、新しい製品等を、新しい設備で、より性能の高いものにしなければならないという要件です。
たとえば過去に作ったことのある製品をまた作るとか、今の設備のまま異なる製品を作るとかいう取り組みではダメです。一番下の「定量的に性能又は効能が異なること」とは、既存の製品と比べて、強度、耐久性、軽さ、加工性、精度、速度、容量等が向上する製品等を求めるものになります。
ただし、製品やサービス内容が前のものとまったく異なる場合は比較が難しいので、この場合は、この要件を満たす必要はありません。
経済産業省は、比較が難しい事例として、航空機用品から医療機器部品の製造にシフトした事例や、ウィークリーマンションをテレワークスペースや小会議室に改装した事例を紹介していますので、参考にしてください。
経済産業省HP:事業再構築補助金(事業再構築指針の手引き「3-6」、「3-7」)
市場の新規性要件
市場の新規性 | ・既存製品等と新製品等の代替性が低いこと |
市場の新規性要件では、新商品を販売した際、それまでの需要が置き換わるのではなく、売上が販売前と比べて大きく減少しないことや、むしろ相乗効果によって売上が増大するといったことが求められます。
経済産業省のHPでは、市場の新規性要件を満たす例として、大衆向け料理を提供している日本料理店が、高価格帯の商品を提供する焼肉店を始める例が紹介されています。
逆に市場の新規性要件を満たさない例として、アイスクリームを販売していた事業者がかき氷を新たに販売する例や、バニラアイスクリームに特化する例が紹介されています。
経済産業省HP:事業再構築補助金(事業再構築指針の手引き「3-5」「4-2」)
売上高要件とは
新しく始める取り組みが、ある程度の売上高を見込める計画であることも求められます。
どのくらいの売上高が必要となるかには、3~5年間の事業計画期間終了後に、
- 総売上高の10%以上となること
- 売上高構成比の最も高い事業となること
の2パターンがあります。
一般的に、後者のほうが、より大きな変革が求められるものになると考えられます。
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の違い
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の違いは、新分野展開・事業転換・業種転換(上記①~③)と業態転換(上記④)で分けて考えると把握しやすくなります。
新分野展開・事業転換・業種転換の違い
新分野展開・事業転換・業種転換の区別は、「日本標準産業分類」を基に行います。
「日本標準産業分類」とは、統計等のために、国内の事業を大分類・中分類・小分類・細分類で分けているもののことです。
たとえば、ファミリーレストランであれば、
- 大分類 飲食サービス業
- 中分類 飲食店
- 小分類 食堂、レストラン(専門料理店を除く)
- 細分類 食堂、レストラン(専門料理店を除く)
となります。
新たに始める事業と既存の事業を比べて、この分類が何も変わらないものが「新分野展開」、中分類・小分類・細分類のいずれかが変わるものが「事業転換」、大分類が変わるものが「業種転換」となります。
たとえば、ファミリーレストランから、外国人観光客向けに日本料理に特化した店を展開する場合、小分類が「専門料理店」(細分類は「日本料理店」)に変わりますので、「事業転換」での申請を検討することになります。
事業転換や業種転換のほうが、新分野展開よりも改革の規模が大きいため、それが売上高要件に反映されているものと考えられます。
ただし、新分野展開であっても主要な設備を変更する程度の改革は最低限必要とされているため、方向性と規模の差はあっても、いずれも大きなチャレンジが求められていることには変わりありません。
業態転換とは
業態転換とは、製品の製造方法や商品等の提供方法を変更するものをいいます。
業態転換の製造方法や提供方法の新規性とは
業態転換では、市場の新規性要件がない代わりに、
- 「製品」と「その製造方法」の両方の新規性
- 「商品・サービス」と「その提供方法」の両方の新規性
のいずれかが求められます。
ただし、「商品・サービス」の新規性については、代わりに「設備撤去等要件」(既存の設備の撤去、既存の店舗の縮小等を伴うもの、又は非対面化、無人化・省人化、自動化、最適化等に資するデジタル技術の活用を伴うもの)があればよいとされています。
事業転換の事例
業態転換の例として、経済産業省は、ヨガ教室からオンラインサービスを始める事例、健康器具の製造者が、AI・IoT技術などデジタル技術を活用して製造プロセスの省人化を行い、付加価値の高い健康器具を製造する例を示しています。
経済産業省HP:事業再構築補助金(事業再構築指針の手引き「6-6」)
新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の選び方
ここまで、新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換の各要件や違いを見てきました。
それでは、これから事業再構築補助金を申請する人は、この4つをどう選べばよいでしょうか。
まずは、
- 新しい商品やサービスのアイデアがあるか
- それが市場の新規性要件(=既存の商品等との代替性が低いこと)を達成できるか
の2つを起点に考えるとよいでしょう。
新しい商品・サービスのアイデアがあり、かつ市場の新規性要件も達成できる場合は、4つのどれでも構いませんので、その場合は、3~5年後の売上高が総売上高の10%以上あればよい「新分野展開」か「業態転換」を選ぶと、事業計画が立てやすくなります。
ただし、新しい商品やサービスによって産業分類の変更が生じる場合、「新分野展開」は選べません。(上記「新分野展開・事業転換・業種転換の違い」参照)
市場の新規性がない場合や、新しい商品やサービスのアイデアがない場合は、製造方法や提供方法を見直すことで、「業態転換」(提供方法の変更)で申請できる可能性があります。なお、今回の事業再構築補助金は、より大胆なチャレンジが評価されます。
実現可能な計画を立てることや申請要件を満たすことは、補助金のチャンスを得るために最低限必要なことですが、新しい可能性に出来る限り挑戦する計画であることが望ましいのも事実です。
今お持ちのアイデアを最大限に膨らませて、後悔のない申請をしましょう。
事業再構築補助金の内容は、執筆時点のものを元に解説しています。
申請される際は、必ず最新の公募要領等をご確認ください。